2013/06/21 12:00

第3回 弁護士 牧野二郎による「起業の時に知っておきたい本当の話」~アグロスパシア・キックオフ・セミナー~

Photo:弁護士 牧野二郎氏セミナー風景 Ⓒ Agrospacia

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 2013年2月22日、アグロスパシア株式会社はIT関連の知識が豊富な法人法務の第一人者、牧野二郎弁護士(牧野総合法律事務所 弁護士法人)をお招きし、コメンテーターには金沢工業大学大学院知的創造システム専攻准教授/太陽国際特許事務所の上條由紀子弁理士をお迎えして、キックオフ・セミナー、「法律と知財: 起業する前にこれだけは知っておきたい!」を開催しました。

 本記事はセミナー内容を書き起こし、編集を加えたものです。

■知財より大事なのは戦略

 アイデア先行で、という部分がありましたが、知財の話です。知財があれば勝てるか? 答えはノーです。特許の話でも触れたように、失敗事例や新しいアイデアにこそ価値がある。いかにすばらしい発明、発見でも、マーケットに出るには時間がかかる。その時間をいかに短縮し、人々に興味を持たせるかが勝負どころです。わざと騒ぎを起こして注目を浴びた結果、売上が伸びて利益につながった、という話もあります。これも考え方を変えれば成功のうちでしょう。人材やアイデアを本当の意味で生かせるような仕組み、戦略が非常に重要だということを念頭においていただきたいと思います。

 何でも一人でできるとは思わないこと。経営について。開発、製造、経営は別物。一人でできると思わないことです。起業しようとする皆さんですから、アイデアマンでいらっしゃるでしょう。アイデアマンといわれる方々は、発想の自由度が物凄く大きい分、経理など細かいことができないことが多い。品質管理や業務管理に業務改善…経営は、総合的判断を必要とする。企業に必要な要素として、継続性と戦略性があるのです。

■様々な誘惑とどう闘うか?

 まず業務提携について。相乗効果だけを考えてはいけません。業務提携する場合は、皆さんの能力が2〜3倍に増える程度がちょうどよい。それ以上を持ちかけられるとすれば、それは、おいしいところ=ノウハウやアイデアを取られて使い捨てられる可能性が高いと思ってください。

 一定の割合、株を取得して経営の一部を管理する、投資や役員派遣の場合。経験値や人脈を得られるメリットはありますが、派遣された役員の出身母体・業務に左右され、自由な経営ができなくなる可能性が高い。さらに、IT企業やIT投資家。株の持ち合いなどはグループ関係を進める場合が多いです。相手方の一員となるメリットとともに、相手方のリスクも背負い、独自性もなくなる。将来、別の企業との合併があるかもしれない。

■そこで法務が重要になってくる

 さて、今説明した事例には、実はすべて法律が関わります。議事録に財務諸表、企業商品取引法に会社法。すべてを一人で完璧にすることはできない。上場しようとする場合、必ず弁護士がつくわけです、証券会社側に。違法な部分は改善するといった作業を重ねるなかで、証券会社側は皆さんにツケを発生させ、上場して株式がドーンと入ってきたときに、ここぞとばかりにそのツケを上場益の中から回収しようとする。会社の側は、株配しなくちゃならないと思い込んで無理して株配し、また、上場を実現する費用、維持する費用や事業資金の返済などで苦しくなり、上場廃止になって全部払い戻し…といったことも起きるのです。これでは本末転倒です。上場は目的ではなく、手段です。会社が良くなったと世界に広く知ってもらうための手段に過ぎないのです。

 今皆さんに本当に必要なことは、まず、大きな夢や発想力を持つこと。そして強固な人脈を手に入れて、ネットワークを築き上げること。自分の目で見ながら、豊かな情報の中から正しい情報を手に入れることです。それには、アグロスパシアで、起業者のための起業者によるコミュニティであるこの場で、起業者自身がお互いに情報交換しながら成長していければ、すばらしいですよね。失敗や間違いを恐れないでください。そのために、失敗や間違いを克服する冷静なリスクの分析と判断力を養ってください。そして、誠実に取り組んでいただきたいというのが、私からの今日のコメントでございます。

PROFILE

弁護士 牧野二郎氏からのメッセージ

弁護士になって民事刑事、破産などを手がけてきましたが、95年にインターネットと出会い、その可能性に魅せられ、大きく人生が変わりました。

小さな世界に生息する生活から抜け出し、広く求める人と共に歩くことのできる世界の構築を目指して、第一歩を踏み出しました。 それ以来、紆余曲折を経験しながらも、変化するものと普遍的なものを見つめてきました。いつも心がけているのは、分からないことを分からないままにしないこと、分からないこと、難しいことには嘘や隠された情報があるので分るまで行動しないこと、分らないことについては、はっきりと「分からない」ということです。

私自身分かるまで動きませんから、アドバイスするときも難しい言葉を使いません。日本語で、分りやすくご説明するように努めています。 情報化社会の中で、法律の役割や効果も大きく変化してきています。法律の世界にも混乱や停滞、矛盾や限界が見えたりもします。裁判制度も変わりつつあります。弁護士の役割も大きく変化してゆくでしょう。そうした変化をしっかりと理解しながら、確かなものを踏まえた対応をしてまいりたいと思います。

略歴

中央大学法学部卒業、1983年に弁護士登録
1996年よりインターネット上で法律相談開始
同年インターネット弁護士協議会設立し同代表に就任
2005年より中央大学法科大学院講師
2006年より内閣官房情報セキュリティセンター企業・個人評価指標専門委員会委員
2008年より情報保全教育に関する調査委員会委員(内閣官房)
 
現在 財団法人インターネット協会評議委員、電子署名電子認証シンポジウムタスクフォース代表、電子署名・認証利用パートナーシップ運営委員、龍谷大学客員教授、日本内部統制研究学会幹事、東京大学大学院情報学環・非常勤講師、電子記録マネージメントコンソーシアム(ERMC)会長

専門:著作権問題、電子商取引、個人情報保護、インターネットトラブル全般、離婚、建築問題

著書:「Google問題の核心」(岩波書店)「やりすぎが会社を滅ぼす!間違いだらけの個人情報保護」(インプレス)など多数