2013/06/19 12:00

第2回 弁護士 牧野二郎による「起業の時に知っておきたい本当の話」ー アグロスパシア・キックオフ・セミナー

Photo:弁護士 牧野二郎氏セミナー風景 ⒸAgrospacia

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 2013年2月22日、アグロスパシア株式会社はIT関連の知識が豊富な法人法務の第一人者、牧野二郎弁護士(牧野総合法律事務所 弁護士法人)をお招きし、コメンテーターには金沢工業大学大学院知的創造システム専攻准教授/太陽国際特許事務所の上條由紀子弁理士をお迎えして、キックオフ・セミナー、「法律と知財: 起業する前にこれだけは知っておきたい!」を開催しました。

 本記事はセミナー内容を書き起こし、編集を加えたものです。

■弁護士とはどうつきあうべきか?

 ビジネスを始めても8割方は失敗すると考えてよいでしょう。逆に言うと、2割の中に入り、どう賭けるかです。

 開発、製造について、何を売るかを考えるべきですが、まず失敗から学びましょう。再起可能な失敗の事例から、次にどうするかを考えるのです。例えば諸外国の例ですが、特許公報を見て、特許の請求項だけ取り除き、違うやり方で、費用と時間を省略して、別のもっとよい物を作り出す、といった感じです。

 では、日本ではどうなのか。日本の家電型、要するに、どんな人が使っても失敗しないようになっていて、当たり前の完璧な状態を求められる。起業する場合にも同様に、社会から完璧を求められる。だが、それだと、どんな良いアイデアがあってもものすごい手間と費用がかかる。

 ならば、グーグル型企業とでもいうべきもの、要するにアイデア先行で、ビジネスの仕組みが6〜7割くらい形になった時点で市場に出し、市場の反応をもらいながら改善していく共同開発・共同改善という方法が、ビジネス成功への一つの形ではないかと私は考えています。

■成功や失敗は時代と市場が決めること

 成功、失敗の評価基準は、時代やマーケットが判断することになろうかと思います。ですので、ビジネスとして成功したいなら、決して誇張しない、誘わない、嘘をつかないこと。これはドラッカーも言っています。手を広げすぎず、いつでも撤退できるよう道を考えておく事が重要になります。

 よく耳にするのが、リスクをとってでも利益を取れという言葉です。本当にそうなのか? 時として該当するかもしれませんが、それは一種の博打であって、ビジネスとは違う。冒険をするのではなく、仕事を的確にこなし、利益をあげられるかどうかが重要なのです。初期段階では間接金融、つまり金融機関などから事業資金として短期的な資金を借りて利息を払い、返済をしながら、利益を上げて株配することは非常に難しい。年5%程度の成長、利益を上げたとすると、その利益分が全部金利の返済に回る・・・いったい何のために働いているのか、ということです。

■経営陣と株主は運命共同体

 金融機関からの借り入れをしたくない……ではどうするか。直接金融です。海外、例えばアマゾンなどでは、株主は、赤字続きのアマゾンを見守り、企業の方向性や事業計画を総会で細やかに説明を受け、それに賛同した者はさらにその企業に投資した。その結果アマゾンは成功し、株主も還元を受けた。直接金融で成功した分かりやすい例です。

 しかし日本では、企業と株主のそういった信頼関係は構築しにくい。株主は株配があって当然、と配当を期待する傾向にあり、また、そうしなければならないと経営者も考えてしまっているからです。しかし、本来あるべき姿は、経営者が株主という共同開発者とコミュニケーションを緊密にはかること、そうして地道に資金調達をして徐々に大きくしていくことであり、それでようやく利益を還元できる。それがビジネスの成功だと思うのです。株主は運命共同体なのです。

 細やかにこちらの事業の段階を説明して理解を得られていれば、ご年配のかたから「詐欺師だ」などといわれることも少なくなるだろうと思います。

PROFILE

弁護士 牧野二郎氏からのメッセージ

弁護士になって民事刑事、破産などを手がけてきましたが、95年にインターネットと出会い、その可能性に魅せられ、大きく人生が変わりました。

小さな世界に生息する生活から抜け出し、広く求める人と共に歩くことのできる世界の構築を目指して、第一歩を踏み出しました。 それ以来、紆余曲折を経験しながらも、変化するものと普遍的なものを見つめてきました。いつも心がけているのは、分からないことを分からないままにしないこと、分からないこと、難しいことには嘘や隠された情報があるので分るまで行動しないこと、分らないことについては、はっきりと「分からない」ということです。

私自身分かるまで動きませんから、アドバイスするときも難しい言葉を使いません。日本語で、分りやすくご説明するように努めています。 情報化社会の中で、法律の役割や効果も大きく変化してきています。法律の世界にも混乱や停滞、矛盾や限界が見えたりもします。裁判制度も変わりつつあります。弁護士の役割も大きく変化してゆくでしょう。そうした変化をしっかりと理解しながら、確かなものを踏まえた対応をしてまいりたいと思います。

略歴

中央大学法学部卒業、1983年に弁護士登録
1996年よりインターネット上で法律相談開始
同年インターネット弁護士協議会設立し同代表に就任
2005年より中央大学法科大学院講師
2006年より内閣官房情報セキュリティセンター企業・個人評価指標専門委員会委員
2008年より情報保全教育に関する調査委員会委員(内閣官房)
 
現在 財団法人インターネット協会評議委員、電子署名電子認証シンポジウムタスクフォース代表、電子署名・認証利用パートナーシップ運営委員、龍谷大学客員教授、日本内部統制研究学会幹事、東京大学大学院情報学環・非常勤講師、電子記録マネージメントコンソーシアム(ERMC)会長

専門:著作権問題、電子商取引、個人情報保護、インターネットトラブル全般、離婚、建築問題

著書:「Google問題の核心」(岩波書店)「やりすぎが会社を滅ぼす!間違いだらけの個人情報保護」(インプレス)など多数