2013/05/24 12:00

第7回 NYでちょっと知られたステキな日本食レストランHIBINO

Photo:なすの煮浸し ⒸHIBINO Brooklyn

NYでちょっと知られたステキな日本食レストランHIBINO
 オーナー、福田しゅうこさんに聞く「NYでレストラン経営をすること」

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

開業への道のり:7
具体的な開店の準備-1

Q:失礼ですが、その時点でお店を出すのに十分な準備はできていたのでしょうか? 資金とか、あるいは、エネルギーというか、年齢的なタイミングとか?

A:旦那がとまどっていた一瞬もありましたが、私が思ったのは「開けて失敗するなら、今かも知れない」ということでした。もっと時間が経ってからだと、起業して失敗したら、二度と立ち上がれなくなってしまうのでないかなと……。年齢的なタイミングですよね。
 お店を出そうかという話を始めたのが一人目を産んだ後くらい。でも、実際に物件を探したり、アイデアが具体的に形になるまでに2〜3年かかりました。お店を開けたのは私が35歳、旦那が36歳の時でした。話し合いを始めた時には、旦那が、まだ、映像の仕事をやりたいという気持もあり、「諦められるのか?」という迷いがあったようです。
 でも、「ここで頑張ってお店を開けて、失敗したとしても、また違うこともできるだろうけど、あと何年か待ったら、どんどん腰が重くなって大変になるだけから、やっちゃおうよ、今」、ということになりました。福田は、映像や脚本だけに限らずものを作って相手に提供する事が好きなので、「これはこれで楽しいよ」と、落とし所を見つけてくれて、じゃあ、お店を開けようかという感じになっていったのです。
 蓄えはまぁ、私が貯めてきたお金とか、旦那が稼いできたお金とか、色々……。こんな資金の額でお店開けるなんてすごい冒険というくらい。あなたたち度胸あるねと言われそうですが、資金の状況はそんな感じで、綱渡りみたいでしたよ。

Q:現在の物件はどのような判断基準で決められたのでしょうか

A:お店の物件は1000平方フィート(約30坪)くらいと最初から考えていて、あとは家賃ですね。マンハッタンの中だと高すぎるから、私たちみたいな資本が小さなところは難しいと判断し、ブルックリンかクイーンズを考えました。クイーンズは移民の家族暮らしが多い地域なので、みんな家でご飯を作って食べるのですよ。
 ブルックリンの方は、米同時多発テロの9.11の後、元々ダウンタウンに住んでいた金融機関勤務の人たちが高級住宅地、ブルックリン・ハイツ辺りにかなり大勢引っ越してきて、家でご飯を作らない層が増えていました。それでブルックリンに開けようということになり、ブルックリン・ハイツだと家賃が高すぎるので、その真下にあるコブルヒルはどうかと考えました。コブルヒルはその頃、レジデンシャルとしては家賃が上がりきっていましたが、コマーシャル物件は 、そこまで高くなかったのです。今はすごく高くなってしまいましたが、その当時は、私たちのお店のある通りは駅から離れているということもあり、何もなかったのです。でも、なぜか「ここだ!」と感じるものがあって。その物件は一度他の人が契約しそうになったのですけど、またチャンスが1~2ヶ月後に戻ってきて、やはりここだと。目の前は児童公園で、視界が開けていて、店の中に入って外を見た時の景色が良かったのです。ここだったら毎日通って、仕込みから閉店までいてもいいなと思い、それで決めました。

PROFILE

福田 しゅうこ
日本での薬剤師からNYにてグラフィックデザイナーに転身。NYにて夫であるフクダと出会い結婚、二児を授かる。子供の誕生を機に起業を考え始める。フクダがNYでシェフをしていたことから、起業すなわちレストラン開業へ、と思考。3年間の準備期間を経て2007年、3月、ブルックリンに「私たち日本人が日常的に食べている食事を提供する店」をコンセプトに「ひびの食堂」を開店。現在「自分の時間を楽しむ。手酌の店」を出店準備中。

福田 勝
映像業界からNYにてシェフに転身。 子供の誕生を機にレストラン開業を目指しアメリカ人オーナーの下で、アメリカ式レストラン・ビジネスについて学ぶ。定番メニューを主軸にした和食の店の開業準備に取りかかり、自身が京都府出身であることから惣菜の京都弁である「おばんざい」を日替わりで提供し、新しい形の豆腐である「瓶詰め豆腐」を提供する店「ひびの食堂」を6年前にブルックリンに開店。妻と二店舗目の出店計画中。