2013/04/24 12:00

2013年、第37回香港国際映画祭から特別レポートⅡ

Photo:オープニング上映作品“Ip Man – The Final Fight”キャストと関係者 Ⓒ HKIFF

2013年、第37回香港国際映画祭から特別レポートⅡ
—オープニング上映作品から見る「イップ・マン」事情―

by Mai KATO/Contributor(特別寄稿)

第37回香港国際映画祭のオープニング上映作品“Ip Man – The Final Fight”

 2013年3月17日の夜、香港コンベンション&エキシビション・センターにおいて第37回香港国際映画祭(Hong Kong International Film Festival/香港國際電影節)が幕を開けた。レッドカーペットには映画祭関係者やゲスト、オープニング上映作品のプロデューサーやキャストが続々と登場し、その賑わいが会場に華を添えた。68カ国・地域から300本を超えるラインナップが出揃った今年の香港国際映画祭。そのオープニングを飾ったのはハーマン・ヤウ監督、アンソニー・ウォン主演の“Ip Man – The Final Fight” (2013年)だ。このタイトルを聞いて「なんだ、またイップ・マンか」と思った方は、相当な香港・中国映画事情通だろう。
 イップ・マンとは中国の実在の人物で、ブルース・リーの師匠として知られる中国武術の一派・詠春拳の達人である。香港のカンフー映画も伝説的スターであるブルース・リーも、イップ・マンの功績なしには存在し得なかったわけで、極めて偉大な存在だ。

「イップ・マン」というキラー・コンテンツ

 イップ・マンが急に注目されたのは4~5年前のこと。『イップ・マン 序章』(2008年)がきっかけだろう。世界的にも有名な香港のアクション俳優・映画監督のドニー・イェンがイップ・マンを演じたこの作品は、当時、中国語圏で大ヒットを記録した。これを受け同じスタッフとキャストでその続編『イップ・マン 葉問』(2010年)が制作されると、これまた続けて大成功。これらに便乗するかのように、中国語圏では続々とイップ・マンを題材とした映画やテレビドラマが制作され、空前の「イップ・マン」ブームが起こったのである。ハーマン・ヤウ監督の『イップ・マン誕生』(2010年)もそのなかのひとつだ。
 ほんの数年のうちに一気に映画・テレビ業界がイップ・マンだらけになってしまい、さすがに中国人の友人も「イップ・マンにはもう飽きたよ」と言っていた。少なからずこれらの事情を知っている者から見れば、今回の“Ip Man – The Final Fight”は「なんだ、またイップ・マンか」となってしまうわけだ。

やめられない、とまらない、そして終わらない「イップ・マン」

 今回、オープニング上映作品のタイトルを知ったときの正直な感想は、「さすがに消費者も飽きているだろうに、イップ・マンで大丈夫なのか?」だった。ところが蓋を開けてみれば、なんと “Ip Man – The Final Fight”上映は2会場とも満席・売り切れ御免という状況だった。
 今年1月に中国語圏でリリースされ、2月の第63回ベルリン国際映画祭ではオープニング作品として上映されたウォン・カーウァイ監督初のカンフー映画『グランド・マスター』(2013年、日本公開は5月31日)も、何を隠そうイップ・マンを題材としている。この映画、実は「イップ・マン」ブームよりもずっと前に構想と準備が進められており、制作期間も3年近くかかっているのだが、トニー・レオンやチャン・ツィイーという豪華なキャストも追い風となって、海外でも次々と公開されている。

 そう、「イップ・マン」ブームはちっとも終わってなんかいなかったのだ。それどころか、「イップ・マン」はもはや中国語圏とカンフー映画ファンの間だけでは収まらなくなってしまった。果たして、いつまで続くのか―― そんな驚くべきイップ・マンの魅力、未見の方は映画館やDVDで是非ご覧いただきたい。