2013/04/22 12:00

2013年、第37回香港国際映画祭から特別レポート I

Photo:第七回アジアン・フィルム・アウォード授賞式会場風景 Ⓒ Mai KATO

第37回香港国際映画祭・第7回アジアン・フィルム・アワード
—香港で注目を集めた「世界の中のフィリピン」―

by Mai KATO/Contributor(特別寄稿)

第7回アジアン・フィルム・アワードのハイライト

 第37回香港国際映画祭(Hong Kong International Film Festival/香港國際電影節)開幕翌日の2013年3月18日、香港コンベンション&エキシビション・センターにて第7回アジアン・フィルム・アワードの授賞式が行われた。
 日本勢では『アウトレイジビヨンド』の北野武が監督賞、『チチを撮りに』の渡辺真起子が助演女優賞、『桐島、部活やめるってよ』の日下部元孝が編集賞を受賞したこともニュースで流れたとおりである。

 一方、日本ではほとんど話題に上っていなかったのがフィリピン勢の活躍について。プレゼンターとして登場したユージン・ドミンゴ(Eugene Domingo)のユーモア溢れるパフォーマンスに始まり、ベテランのノラ・オノール(Nora Aunor)が主演女優賞、エディ・ガルシア(Eddie Garcia)が主演男優賞をそろって受賞し、民族的バックグラウンドがフィリピン系と思われる観客たちは熱狂的な歓声をあげていた。スピーチの途中、何度も同時通訳の英語字幕が「現在、タガログ語のため通訳できません=Speak Tagalog」という表示でフリーズしていたのが印象的だった。

香港の中のフィリピンというプレゼンス

 日曜日の香港・中環(セントラル)に足を運んだことはあるだろうか? 誰もが目にする、いわば名物ともいえる風景がそこにはある。出稼ぎのフィリピン人たちが手作りの料理などを持ち寄って一同に集い、通路の両脇をずらっと占拠し、楽しそうにおしゃべりをしているのである。
 その光景を初めて見たのは、2年前の同じ時期のこと。香港人の若手映画制作者と一緒に食事をするためIFC(ショッピング・モール)に向かう途中のことだった。何も知らなかった私が、「あれは何かのデモ? みんな楽しそうだったけど」と聞くと、彼は笑ってこう答えた。「ああ、フィリピンの人たちだよ。僕らにとってもあれはミステリーなんだ」
 エディ・ガルシアの受賞スピーチにスタンディング・オベーションで応える一部の観客たちを見て思い出したのは、この中環に集う人々の光景だった。

 今回のアジアン・フィルム・アワードでのフィリピン勢の活躍が、香港や本国で頑張るフィリピン人たちにどれだけの喜びと元気を与えたことだろうか。”Speak Tagalog”という素敵な魔法に隠されて、2人の受賞者がスピーチで何を言っていたのかは私にはまったくわからなかったのだけれど、彼らの興奮した様子を見るだけで、その喜びは十分過ぎるほど伝わってきた。

無視できないマイノリティの力

 そして、その光景にデジャヴを覚えたのは私だけではないはずだ。2002年に開催された第74回アカデミー賞で、シドニー・ポワチエに名誉賞が贈られ、それに続いて、デンゼル・ワシントンが主演男優賞を、ハル・ベリーが主演女優賞を受賞したときのことだ。
 受賞スピーチでは、デンゼル・ワシントンがシドニー・ポワチエに「40年間あなたを追いかけてきた」と熱弁し、ハル・ベリーは2004年の第25回ゴールデンラズベリー賞で果敢にも自らパロディを演じることになる”Oh, my God. Oh, my God.”を連発した。同時多発テロ後のアメリカで、アフリカ系アメリカ人による初の主演男優賞・主演女優賞のW受賞は彼らの同朋の心にどう響いただろう。

 2012年、中国の映画興行収入が日本を上回り、米国に次ぐ世界2位の映画市場になったことは、大いに報道されているとおりだ。年々進む日本の洋画離れもその一因ではあるが、BBCなどが報じているように、この背景には輸入外国映画本数の規制緩和が挙げられる。 
保守的だった中国の映画マーケットは、いま積極的に世界に向けて門戸を開き、成功を遂げつつある。

 今回のアジアン・フィルム・アワードでのフィリピン勢の大活躍とそれに歓喜する観客を見て感じたのは、まさにフィリピンという国、そしてフィリピン人たちの、凄まじい勢いと可能性だった。フィリピン映画も、これからどんどん世界に進出してくるのだろう。そこでエディ・ガルシア主演の話題作、『ブワカウ』を見そびれていたことを思い出した私が、思わず焦りを感じたのは言うまでもない。