2013/04/19 12:00
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー
Photo:HKIFF事務局オフィスでのR. ガルシア氏 Ⓒ Junko Iwabuchi
かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.12 / 最終回
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
Q:映画やTV番組の熱心な若い女性ファン層がSNS上でストーリーを発展させたファン・フィクション(日本でいうBLを含む)の創作に夢中だそうですね。
こうした中から、『トワイライト』のキャラクターをベースにしたファン・フィクションを新たな作品として仕立て直し、昨年話題となったベストセラー官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のように、商業出版として大ヒットするものまで現れてきています。これらの新たな市場の可能性については、どうお考えですか?
ファン・フィクションについては、もともとTV番組について、あれこれ投書してくる人たちというのは大変な数で存在していました。
ストーリーを「こうすべきだ」とか「ああすべきだ」とか、この登場人物はどうなるべきだとか、数千、数万人という人たちがアイディアをどんどん送ってくるのです。それがインターネットの時代になって、かつてないほど拡大しいるのが現状だと思います。
一方で、制作に当たるスタジオ側では、番組の脚本がそうしたアイディアを盗用したものではないことを証明しないと、「それは自分が送ったアイディアだ」と主張する人から訴えられないとも限らないので、なかなかに厄介な状況です。
ファンの人たちの書いた作品がポータルサイトでデータベース化され、権利関係がはっきりしていて、しかも作品としてのレベルがそこそこなら利用する価値はあるでしょう。
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の権利処理がどのようになされたのか、具体的には知りませんが、権利関係に問題が無く売れるのであれば、それはそれで良いのではないかと思います。ハリウッドはおカネ儲けのシステムですから…。
クリエーターに選択肢は増えたが結局は作品が面白いかどうかがすべて
一昔前、映画の脚本や小説は、なかなか日の目を見ることがありませんでした。作家は、書き上げた自分の作品をあちこちの出版社に送っては突き返されるというつらい体験を繰り返し、運が良ければようやく出版にこぎ着けるという状況だったわけです。
最近では、インターネットのおかげで、作品の書き出しの1〜2章を公開しておけば、バイラルで話題になって売れると思われたら、出版社の方から声をかけてきます。昔と違って、作品を書き上げても売れないリスクをいくらか軽減できるので、作家側でも出版社側でも、どの程度の部数になりそうかの予測をたてることも可能です。
時代が変わるにつれ、作品の売り出し方も変わっていくとは思いますが、作品じたいにどれだけの面白さがあるかどうか……が、最終的にはその作家の実力なのではないかと思います
TVドラマや映画作品を下敷きにして、シナリオを書く技術力があれば、ある程度話題になる作品を生み出すことはできるでしょう。
ただし、他人のストーリーを下敷きにした作品しか書くことができないのであれば、作家としてやっていくのは難しいと思いますし、簡単に読者から飽きられてしまうと思います。力のあるストーリーが人の心をつかみ、長く愛される映像作品になるということは、いつの時代も変わらないのではないでしょうか。
ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。