2013/04/17 12:00
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー
Photo: スター・フェリーのデッキから見た夜の香港アーツ・センター Ⓒ Mai Kato
かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.11 / 全12回
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
Q:近年のソーシャル・メディアの台頭と共に話題を集めている、特に若い女性をターゲットにした、ファン参加型のマーケティングのあり方、また、これは若い女性に限りませんが、参加型の創作プラットフォーム…例えば、フィンランドで2743人もの映画好きが出資したり、脚本制作にもSNSを通じて協力したSF大作 『アイアン・スカイ』 を世に送り出した”Wreckamovie” についてご意見をお聞かせ下さい。
個人的には、自分の脚本を無闇に多くの人の目にさらすことはマゾキスティックな行為だと思いますが…。
ソーシャル・メディア、たとえばFacebookやtwitterでアクティブな年齢層は、ハリウッド映画が訴求しようとするマーケティングのターゲット・グループとぴったり合致するのではないかと思います。
ソーシャル・メディアを一番使うとされる18歳から25歳という年齢層は、大学生、もしくは大学を卒業して働きはじめたばかりの独身が多い世代です。彼らは、たっぷりの時間と多少のお金が自由になりますし、ネット上で過ごす時間が他の年齢層に比べて長いのです。
今日のインタビューの前に、ちょっと調べてみたのですが、18歳から24歳の年齢層の男女に限っていうと、その47%がユーザー・レビューを信用するというのですよ。さらに、SNSなどで映画について情報を交換しあったり、何が面白かったなどと議論しあったりするグループの57%が18歳から24歳の年齢グループに所属していることも明らかになっています。
彼らは映画を見た後すぐに感想をSNSに投稿するので、これは正に、映画を売り込むのに最適なデモグラフィックといえます。ですので、ソーシャル・メディアを使ったマーケティングは、たとえば『トワイライト』や『ホビット 思いがけない冒険』、ピクサーがリリースするアニメ作品などには適しているといえるでしょう。
一方で、35歳を超えると、SNSの影響力はかなり落ちるようです。将来的には、これも変わってくるかも知れませんが、今のところ35歳より上は、年齢が上がるにつれてあまりコメントをしたりしなくなるようなので、50歳以上をターゲットとする映画のプロモーションには、Facebookは適していないと思われます。
Q:SNSに関連していうと、『ヴァンパイア・ダイアリーズ』、『スーパーナチュラル』など、ワーナー・ブラザースから派生したCWネットワークがTV展開しているシリーズ・ドラマは「18歳から34歳の女性をターゲットにしたコンテンツ」であるとネットワーク側もはっきり謳っています。CWのドラマを支持する若い女性ファン層はSNS上でとてもアクティブで、番組内容や出演俳優について話し合うだけではなく、ストーリーを発展させたファン・フィクション(日本でいうBL的な、男性どうしの恋愛ものがほとんど)の創作に熱心だそうです。『トワイライト』のファン・フィクションを新たな作品として仕立て直し、昨年話題となったベストセラー官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のように、商業出版として大ヒットするものまで現れてきています。こうしたファン・フィクション市場の可能性については、どうお考えですか? また、女性たちがヴァンパイア映画に熱狂する理由はどこにあるのでしょう?
18歳から34歳というのは、一般的な商業映画がメイン・ターゲットとして想定する年齢グループそのものになります。特に、この年齢層のうちティーンエージャーの女のコたちがホラー映画のコア観客層であるというのが、ハリウッドの長年の常識です。
ヴァンパイアについていうなら、ホラー映画という性格もあるし、基本的にはロマンティックなストーリーで、特に思春期の女のコが興味を持つような、恋愛やセクシュアルな示唆に溢れた内容で作られていますから、彼女たちが夢中になるのは無理のないことですね。
ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。