2013/04/15 12:00

香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー

Photo: おみやげの定番「出前一丁」香港版シリー ズ Ⓒ Mai Kato

かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.10 / 全12回

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

Q:悪役だけやっているようではハリウッドでの地位向上は望めない?

 たしかにイ・ビョンホンはハリウッドに進出していますが、『G.I.ジョー』のようなあまり質が高いとはいえない映画で、しかも悪役を演じています。

 中国出身の世界的俳優であるジェット・リーは、やはり最初の頃は悪役を演じていましたが、ハリウッド・デビューの後はヒーローを演じるようになりました。

 香港出身のチョウ・ユンファは、出演した台湾出身のアン・リー監督作品、『グリーン・デスティニー』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞してから「世界的な俳優」と呼ばれるようになりました。

 こうした「役柄上の出世」や国際的な認知というのは、ハリウッドで仕事をするマイノリティにとっては、自分たちの人種グループ全体のイメージ向上にもつながるので、とても重要なことなのですが、韓国出身の俳優の場合は、まだなかなかそういった域に達していないのではないでしょうか。

 韓国はハリウッドに俳優を輸出し、自国で作ったハリウッド・スタイルの映画を輸出しようとがんばっていますが、まだ道半ばといったところかもしれません。

 一方で、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「ラストスタンド」を韓国出身のキム・ジウンが監督するなど、韓国からの輸出映画ではなく、ハリウッドで「アメリカ映画」の制作にたずさわる韓国出身の監督や脚本家も出てきています。

 ただし、こうしたアメリカでの韓国人監督の活躍がどれほどの興行成績に結びつくかどうかは未知数ですし、ハリウッドでは売り上げに結びつかなければ評価はされません。

 それでも、アーノルド・シュワルツェネッガー出演の映画を監督すれば、そこそこ売れてしまうのがハリウッドなわけで、逆に、どんなに優れた作品であってもアジア映画として作った作品を国際的に流通させ、高い評価を得るのは困難なのです。

いまだに絶対的優位が揺らがないハリウッドというシステム

 もし、世界中に作品を流通させたいと思うなら、世界的に売れるストーリー、キャスト、監督による作品を撮らなければなりません。この点においては、今現在も資金と才能が集中するハリウッドが最も理想的な環境で、長い年月をかけて完成させた配給システムがものをいいます。

 ハリウッドの配給システムとマーケティングに勝てるビジネス・モデルは、映画コンテンツについていうのであれば、今のところ他に存在しません。

 成功しているビジネス・モデルには、成功する理由があるわけですね。映画産業システムとして、ハリウッドをしのぐ無駄の無い仕組みは、当分出てこないと思います。

 もちろん、中国がそれを狙ってはいますが、それでもハリウッドのプラットフォームを使うことで、世界中に作品を流通させようとするのではないでしょうか。

 アメリカ映画が世界最高というつもりはありませんが、ハリウッドで映画を作らせ、世界的に流通させることが、興行的な成功につながるということです。このシステムは、当分変わらないでしょう。

 ハリウッドの映画づくりは「産業」として標準化されたシステムなので、監督がすべてに決定権を持てる香港やヨーロッパ出身の映画監督には我慢ができないかもしれません。ハリウッドの王様は、ある意味映画スターと言えますが、本当に権力を持っているのは「スタジオ」なのです。

 コンピューターやITビジネスを見ても同じことが言えるかもしれませんが、マイクロソフト、アップル、グーグルなど、これらアメリカ企業の最大の競争相手は、結局アメリカの企業なのですよ。

 普遍的なビジネス・モデルの構築においては、やはり今でもアメリカは強いですね。そして、資本主義社会における投資というものを知り尽くした金融機関の存在も見逃せません。昔から、「ハリウッドのスタジオは絶大な権力を持っているが、ハリウッドのスタジオを操る権力者はニューヨークにいる…」と言われる所以です。

PROFILE

ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター

2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。