2013/04/12 12:00
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー
Photo:九龍のフルーツジュース屋台 Ⓒ Mai Kato
かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.9 / 全12回
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
Q:Youtubeのお話が出たところでお聞きしたいのですが、
昨年の秋から韓国のミュージシャン、PSYが世界中で大人気となり、Youtubeでのビュー・カウントが1億回を突破したことが大きな話題となっていました。
彼の例でいうと、iTunesなどの、通常の楽曲販売ルートから得られた収益よりも、Youtubeからの広告収入の方が十倍以上も大きかったようですが、こういう事象をどうご覧になりますか?
いつの時代にも存在する「フィジカルなカラオケ」
一言でいって、彼は運が良かったということに尽きると思いますよ。PSYは『江南スタイル』が初めての曲というわけではなく、その前にはいくつもヒットしなかった作品もありましたしね。伝統的にあの手の、ノリの良いダンス・ミュージックは、映像で振り付けが決まっている場合、みんなが真似しようと思って、同じ人が何回も繰り返し、繰り返し見るということが起きるわけです。
かつてのマイケル・ジャクソンのムーン・ウォークもそうでしたし、もっと時代を遡ると、ジョン・トラボルタの『サタデー・ナイト・フィーバー』がありました。
『サタデー・ナイト・フィーバー』は、ビデオ以前の時代だったので、若者たちは何度も映画館に足を運んでフリを覚え、ディスコに繰り出しては踊っていたので、映画館の売り上げに貢献したわけです。
それがビデオの時代でも起き、今度はネット上で起きたわけです。これは必然性のある話で、様々な条件が揃った上でみんながPSYのダンスを真似したいと思って、繰り返し繰り返しクリックしたことが今回の大ヒットにつながったのでしょう。ある意味、フィジカルなカラオケみたいなもの…でしょうね。
Q:韓国が基本的にハリウッド式の派手な商業映画の制作スタイルを踏襲し、自国俳優の米国市場への売り込みに熱心だったり、PSYがジャスティン・ビーバーのマネージャーを雇ったりしていることについてはどう思われますか?
これからも、エンターテインメントの世界では米国式のやり方が世界標準として、その優位が続くのでしょうか?
韓国よりもハリウッド進出が早かった日本
ここで指摘しておきたいのは、日本が実は、ハリウッドと長いつながりを持っているという事実を忘れてはいけないということですね。
歴史的には、1920年代に活躍したルドルフ・バレンティーノのライバルとさえ呼ばれた日本人スター早川雪洲がいますし、第二次大戦後の1950年代には、シャーリー山口(山口淑子)、梅木美代志といった日本女性がブロードウェーやハリウッドに進出して、一世風靡とまではいかないまでも、かなりの注目を集めて成功を収めたのです。
また、『スピード・レーサー(マッハGoGoGo)』のような日本製アニメは早くから全米ネットワークのTVで放映され、今ハリウッドで活躍している監督の多くは、子供時代にそれを見ながら育ちました。
一方、韓国のハリウッド進出は歴史が浅く、特に21世紀に入ってから、政策的に韓国映画を「韓国製品」として世界に輸出しようという機運が高まりました。
様々な作品が作られたものの、アクション映画や本国では観客動員1230万人動員を記録した『グエムル~漢江の怪物~』など、莫大な予算をかけて海外向けにもリリースしたのですが、韓国以外での興行成績は振るいませんでした。
それを踏まえて申し上げるならば、どんなにVFX技術が優れていても、ハリウッド・スタイルで映画を作って海外でリリースしたからといって、売れるわけではないということです。その証拠に、韓国は『ゴジラ』を作ることができませんでした。
ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。