2013/04/08 12:00
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー
Photo:米俳優・キアヌ・リーブスによるマスター・クラス Ⓒ HKIFF
かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.7 / 全12回
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
Q:最近の若いフィルム・メーカーがキック・スターターやインディGoGoのようなクラウド・ファンディングのプラットフォームで資金調達している状況をどうご覧になっていますか?
ハリウッド型システムに挑戦する新しい価値観1:映画づくりには大金が必要
まだ事例は少ないと思いますが、面白いと思いますね。新人作家だけでなく、ハリウッドでも名前の知れた脚本家が、いわゆるハリウッド・システムでは実現できない作品を作ろうとして、クラウド・ファンディングを利用した例も話題になりました。
資金調達の効率という点では、知名度の高い映画制作者であれば、本来ハリウッド・システムのほうが無駄はないと思いますが、しがらみに関係なく自由な創作をしたいといった時には、興味深い選択肢だと思います。
アメリカでインディーズの映画を作ろうとしたら、バジェットの範囲は1万ドルから350万ドルの間ぐらいが相場だと思いますが、ひととおりのことをしようとしたら、100万ドルは欲しいところでしょう。
駆け出しの映画監督が作品を撮ろうとしたら、親兄弟や親戚一同に頼んみ込んだり、さらにかかりつけの歯医者さんだとかなど、身の回りの人に頼み込みんだり、自分のクレジット・カード・ローン一杯のお金を引き出すなどして、ようやく15万ドル程度を調達して映画づくりをするわけです。そんなことをすれば、当然の結果として借金漬けになるだけでした。
新しい選択肢の一つとしての可能性
キック・スターターで出資者を募る場合、25〜75ドルを支払う人が一番多いとのことなので、システムとしては以前とそんなに違わないのですが、25〜75ドルの債権回収に目くじらを立てる人は滅多にいないのが、大きなメリットといえるかもしれませんね。
そして、小額でも出してくれた人には「ありがとう」と書かれた棒つきキャンディー、Tシャツ、あるいは作品ができた時のDVDとか、オンラインでの鑑賞権とか……ちょっとしたお礼を予め設定しておけば、将来に渡って借金漬けになる心配はないし、プロジェクトを応援してくれるコミュニティの形成には役立つでしょう。
お金を出す側の人にとっても、25ドルを出資した映画が失敗に終わってもさほど気にならないでしょうし、支援したい誰かが映画を制作するのに「参加した」という実感を得られるのは悪いことではないはずです。
とはいえ、まだまだキック・スターターだけで資金調達して完成し、映画祭に出品されたものはあっても、劇場公開にこぎ着けた作品の数はごく僅かで、ましてやボックス・オフィスでの売り上げについては、あまりにも規模が小さく、情報がほぼ皆無なので、何ともいえません。
現段階では、今後の動向を見守っていくしかないですね。インディGoGoについては、俳優のフォレスト・ウィテカーが共同代表を務めるJuntoBox Films(映画制作者とファンが一緒になって映画を制作するコラボレーション・スタジオ)で、インディGoGoで資金調達したプロジェクトをいくつか実際に制作するというニュースがあったので、どういう結果が出るか注目していきたいと思っています。
ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。