2013/04/05 12:00

香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー

Photo: 空港から市内への移動は エアポートエクス プレスで24分 Ⓒ Mai Kato

かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.6 / 全12回

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

Q:香港国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターの職務内容について教えて下さい。
映画祭を運営するということ 2:テクノロジーの進歩と共に複雑化する映画祭の運営

 昔であれば、35mmのフィルムをただ持って来て上映すればそれで良かったものが、デジタルの時代になり、上映フォーマット(DCP)が複雑化して、思いもよらない厄介が持ち上がったりします。

 コンピューター技術というのは、未だに信用できないものです。サーバーに上げた作品が突然フリーズして、映画祭の最中だというのに一般上映ができなくなってしまったことが実際に起こりました。

 映画祭で使用する公共ホールのすべてがDCP対応というわけではないので、映画祭のプログラムを決定する際、どこで何を上映するかの割り振りも大仕事になっています。ですので、映画祭の仕事というのは、以前に比べるとはるかに複雑化しており、それにともなってエグゼクティブ・ディレクターである私の仕事も増えて複雑化しているということになりますね。

Q:世界中の映画祭の数が増え過ぎたというお話がありましたが、
私が最近出会ったLAの若いフィルム・メーカーは「映画祭に作品を出すなんて無意味だ」というようなことを言っていました。実際のところ、どうなのでしょうか?

 映画祭に出品するには理由があります。メディアの注目を集め、それをきっかけにして作品を売ることが映画制作者にとっての目標です。でも、映画祭で作品が上映されたからといって、新人作家の映画の配給がいきなり決まることなどはあり得ないので、まずは、ひたすらパブリシティーの獲得のため、メディアの注目を集めようと頑張るわけです。

 比較的レベルの高い映画祭だけでも100ぐらい存在し、業界が注目しているのはその半数ほどですが、うまくいけば影響力のある業界紙に取りあげられる可能性があります。

 「取材してもらえればラッキー」という影響力を持つ業界誌は『スクリーン・インターナショナル』、『バラエティ』、『ハリウッド・レポーター』の三誌だけです。これらはすべて英語圏の媒体です。

 新聞で影響力があるのは米国なら『NYタイムス』、英『ガーディアン』、ヨーロッパならフランスの『ル・モンド』ぐらいでしょうか。それ以外の媒体で取りあげられたとしても、ギョーカイ・レベルでは、まず、ほとんど話題にならないでしょう。

 上映されただけで話題になる映画祭といえば、トロント、サンダンス、カンヌ、ベルリンなど、ほんの一握りです。東京はどうでしょうね…。香港国際映画祭は当然、中国語圏の映画には大きな意味を持っています。

 発展著しい釜山は、規模が大き過ぎて埋没してしまいがちなので、新人作家にはおすすめできません。もし映画祭に出品しようというのであれば、自分の作品の意図にあった映画祭で、かつ作品のセールにつながる、ちゃんとバイヤーや配給会社が見に来ている映画祭に出品しなくてはダメです。要するに、社会派ドキュメンタリー作品を世に送り出そうという場合、カンヌに持って行っても「ちょっと違う」という話ですよね。

 映画のビジネスは、最終的に買い手がついて、ボックス・オフィスでの売り上げにつながらなかったら次がないということを、絶えず考えなくてはいけません。いろいろな考え方があるとは思いますが、たとえ『NYタイムス』が絶賛した芸術性の高い映画であっても、まったく買い手がつかない場合にはプロデューサーとしては大失敗なわけで、むしろ酷評されることでその映画が売れたならば、商業的には大成功というわけです。

PROFILE

ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター

2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。