2013/04/01 12:00

香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー

Photo:2012年に行われた第36回香港国際映画祭オープニング Ⓒ HKIFF

かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.4 / 全12回

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

Q:香港映画祭の歴史について教えて下さい
アジア初の国際映画祭 4:香港に求められる役割は巨大市場・中国への扉

 外資系、特に欧米の金融機関にしてみれば、中国の巨大市場に当然注目しているわけで、中国本土に隣接していながら国際金融市場としての自由が保証されている香港という立地には、強い関心をもっています。

 中国が発展するにつれ映画を見る層は拡大し、増加する観客のためにどんどん作品を作る必要があることから、映画産業は急速に発展しています。そして、映画を鑑賞するための映画館の数も爆発的に増えているのです。ハリウッドは伝統的に、資金力のあるところへならどこへでも出て行くことで知られています。中国本土での資金調達の可能性についてはずいぶん前から模索していますし、どうやったら中国でハリウッドの映画をヒットさせられるかも必死でリサーチしています。

 現在の中国では、年間40本の外国映画の公開しか許可されていないので、まだまだ限定的な市場ではありますが、中国系資本は無視できない影響力を持ち始めています。すでにアメリカの映画館フランチャイズの株を大規模に取得したり、ハリウッドでの映画そのものへの出資についても検討したりするなど、中国マネーは動きを活発化させています。

 今のところは、まだ、中国側もアメリカ側も、相手の様子を見ながら次の出方を模索している状況ですが、いずれ高収益を上げる米中共同プロダクションによる作品のヒットが生まれるのではないでしょうか…。これは時間の問題と思われます。

今では毎年99万人もを動員するイベントに

 現在の香港国際映画祭は、会期中、99万人以上を動員する一大イベントとなっていますが、希望としては、もっと多くの来場者を集めたいと思っています。ポテンシャルは十分にあるのですが、上映会場を街中のあちこちに分散せざるを得ないため、移動が困難なことがネックになっています。

 もし、複数の上映ホールを備えたフィルム・センターのような施設があって、一ヶ所で集中して映画を見ることができるようになれば、ビジネス目的で香港に来る映画関係者の仕事の効率ははるかによくなるはず。それだけで、ざっと25%程度の参加者数の増加が期待できます。たとえば、私がベルリン国際映画祭に行く時は、朝9時から夜9時まで映画を見続けるので、一日で6本の作品を見ることが可能ですが、頻繁に移動しないとならない香港ではこれは不可能です。

 現在の香港では、映画に特化した目的ではないものの、大規模な文化施設の開発が進んでいるので、こうしたところを会場にできないかという交渉も行っています。ただし、施設が実際にできてみないと、我々にとって使い勝手の良いものになるかどうかはわかりません。視覚芸術という捉え方をするなら、美術館とのコラボレーションなども可能性は大きいと考えています。

 香港国際映画祭は時代と共に歩んでいますが、香港の住人や観光客を問わず映画好きを増やすために、伝統的な劇場を使った上映だけではなく、ゲリラ的な移動上映会や、巨大スクリーンによる屋外上映会なども企画します。ただし、屋外上映はとてもお金がかかるため、うまくスポンサーが見つかった場合に限るのですが……

 映画は娯楽でもありますが、アートという側面もあります。現代美術の文脈による映像作品も多く存在し、アート系の人たちが街中の変わった場所で作品を見せていることは注目しています。若者の集まる、いわゆるトレンディー・スポットでは、バーや飲食店で映画を見ることに抵抗はないでしょう。そもそも香港国際映画祭は、お金を払ってチケットを買ってくれる観客の皆さん……その多くが地元の方たちというわけですが、彼らが支払ってくれるお金によって支えられています。それを忘れず、大衆文化の一部であり続けたいと思っています。

 インターネット上での映画祭の可能性についても、もちろん検討しています。24時間、ノン・ストップの上映プログラムというのは魅力的で、ぜひやってみたいと思っています。とはいえ、これだけ技術やインフラが発達しても、一度に多くの人がアクセスすると配信が不安定になってしまうので、なかなかイッキにというわけにはいかないのが現状です。

 中国本土への配信を考え、中国語圏のYoutubeとでもいうべきYoukuと基本合意を取りつけて、短編映画の配信を一緒に試してみていますが、すでに大変な人気となっています。

 中国の動画配信サーヴィスは、見に来る人が殺到してクラッシュするといった心配だけでなく、内容によって検閲ブロックされる可能性があるなど、世界に向けて発信するのに万全というものではありません。とはいえ、中国本土の観客のポテンシャルを踏まえ、また、誰もが映画祭の期間中に香港に来られるわけでないことを考えると、プログラムの一部をオンラインで見られるような対応は、今後ますます必要とされていくだろうと考えています。

PROFILE

ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター

2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。