2013/03/29 12:00
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
ーロジャー・ガルシア氏に聞くアジアのコンテンツ・ビジネスの今、そして未来ー
Photo:第36回香港国際映画祭 “Vulgaria” ガラ・プレミア Ⓒ HKIFF
かつての”映画好き青年”が世界を一周して香港に帰ってきた! Vol.3 / 全12回
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
Q:香港映画祭の歴史について教えて下さい
アジア初の国際映画祭 3:新しい時代、強力なライバルの登場
1996年になると韓国の釜山で映画祭がスタートします。これも、もともとは我々の香港国際映画祭をモデルとしてデザインされましたが、今ではアジア最大級の映画祭に成長しています。
韓国映画は、1990年代半ばから後半にかけて成長産業となりました。当時、韓国では表現の自由が大幅に緩和され、アジア通貨危機を経験して、国策としての積極的な国産映画の奨励があり、国内で上映される映画のうち、たしか……40%以上が韓国制映画でないといけないといったクォータ制度が存在しました。これは、投資家にしてみると、「国産映画を作れば需要が確実にある」という意味にもなりました。
映画は公開できればある程度の資金回収が可能ですから、比較的低リスクな投資案件ということになり、VCが熱心に映画づくりに資金提供を行うようになったのです。経済危機から立ち直り、急激な成長を遂げるサムスンやLGなどの韓国を代表するハイテク企業のVC部門、銀行系のファンド、さらにはサムスン・グループから独立して、アメリカの映画会社であるドリームワークスSKGにも出資したCJエンターテインメントなどが、映画産業に莫大な投資を行うようになったのがこの時期です。
サムスンやLGにしてみると、ゲームなどへのアニメ・コンテンツの活用や、映画に投資することを通じて、様々な技術開発につなげたいという野望もあったようです。ただ、2000年代前半まで続いた、このCGアニメ、VFX技術、ゲームへの技術応用などへの強い関心は、思ったようにうまくは展開できなかったようですね。
映画は産業であり、ビジネスでもある
21世紀に入り、香港国際映画祭の運営体制にも大きな変化が起こりました。2004年に香港政庁の直営方式から、独立した非営利の文化・芸術機関として組織運営が生まれ変わったのです。以前のように予算がついて、その範囲内でやっていれば良いということではなく、公的助成金も受けてはいますが、みずからスポンサーシップを獲得して、チケットの売り上げ向上にも最大限の努力をしなければなりません。
映画は、ある意味では芸術ですが、一方で産業であり、ビジネスという側面も持っています。ですので、私たちには映画産業の振興に寄与しなければならないという使命もあります。そのため、香港政庁の中で強いつながりを持っているのは、芸術振興セクションというより、デザインやファッションなどと同じように、創造産業に関連する部署になります。以前にも増して、実行しなければならないこと、実現しなければならない課題は多様化しています。
今は、メイン事業の3月の国際映画祭で毎年、2週間で250本の作品を上映します。そして、サマー・フェスティバルでは40本の映画を上映します。この他、アジアのアカデミー賞とでもいうようなエイジアン・フィルム・アワードを運営しており、100名程度のセレブたちに香港に集まってもらい、アジアの映画関係者に賞を贈る華やかな式典を開催しています。産業に直結した部分ではHAF(ホンコン=エイジア・フィルム・ファイナンス・フォーラム)を通じて、これから映画を制作しようというチームを毎年30ほど選んで香港に招き、彼らにエージェントや出資者、配給会社などに売り込む機会を提供しています。
すでに10年やってきていますが、日本の黒沢清監督作品なども、ここでプロジェクトを成立させることに成功しました。
ファイナンスを含めて、映画制作についてのセミナーを主催し、たとえば2012年には、映画への投資を行う際、バックアップに積極的なJ.P.モーガンのようなアメリカの金融会社と一緒に業界ネットワーキング・イベントを行ったりもしました。
J.P.モーガンは、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ドリーマーズ』の資金調達を担当したり、ディズニーの元CEO、マイケル・アイズナーの新しい会社のための大規模資金調達キャンペーンに協力するなど、映画業界ではビッグ・プレーヤーとして知られています。
ロジャー・ガルシア氏プロフィール
香港国際映画祭 エグゼクティブ・ディレクター
2010年9月より香港国際映画祭事務局(正式名称は Hong Kong International Film Festival Society)で、香港国際映画祭 (HKIFF), エイジアン・フィルム・アウォーズ (AFA), 香港=アジア・フィルム・ファイナンシング・フォーラム (HAF)の運営責任者として辣腕を振るっている。香港生まれだが、英国のボーディング・スクールで育ち、 リーズ大学で映画について学び、卒業後、二十代の 半ばで香港国際映画祭の立ち上げに尽力。その後渡米し、自身もプロデューサーとしてインディーズ、及び、ハリウッドで映画制作に携わり、世界各地の映画祭でアジア 映画上映のプログラミングに関与してきた。カリフォルニア州のバークレーに自宅があるが、現在は香港ベース。美味しいものが大好きで、料理が得意 という一面も。