2013/03/22 12:00
アメリカにも美味しい豆腐があることを知ってほしい・・・
ーHodo Soy Beaneryー CEOミン・ツァイ氏の挑戦
にぎやかなフェリー・ビルディングの屋外:ⒸYukinori Kurosawa
“カリフォルニア・ネイティブ”の豆腐専門店、Hodo Soy Beanery
ベトナム系ファウンダー、ツァイさんが金融マンをやめて豆腐マスターになったわけ Vol.6/シリーズ・パートI最終回
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
まだまだ根づよい「豆腐はまずい」という先入観
ツァイさんは、ビジネスマンとしてとてもオープンな人物で、自分の知識や経験について、ほとんど何でも包み隠さずに教えてくれる。
「豆腐を食べる人が増えたと言っても、まだまだこれから。あまりにも長い間『身体に良いから、食事制限のある人がやむを得ず食べるもの』といったイメージが染み付いていて、豆腐をまずいと思っている人は多い。
それを改善するためには、本当に美味しい豆乳で作った豆腐はどんな味、舌触りなのか、豆腐を使うとどんな美味しい料理を作ることができるのか。消費者に知ってもらうため、教育的な活動をしていくことが一番大事だと思う。そのためには日本風の食べ方、レシピもぜひ共有したいので、メニューの提案は大歓迎です」
アメリカでは、ミシェル・オバマ大統領夫人が子供たちの肥満を解消するため「正しい食べ方の重要性」を訴える活動をするなど、健康な生活を維持するための食育への関心が高まっている。日本でならば、豆腐を学校給食や、在宅で食事制限のある糖尿病患者向けの食事サービスなどに活用することを真っ先に考えるのではと思って聞いてみると、アメリカでは、給食、病院や老人ホームなどの食事の平均的な単価が、なんと一人あたり3ドル程度とのことで、「ビジネスとしては成立する余地がない」のだという。
「豆腐が身体に良いことは、みな知っていますから。病院、軍隊、学校など、特に政府や公的機関の組織や団体からさまざまなアプローチを受けましたが、コスト的にまったく見合わないので、すべてお断りしています」と、ツァイさんは苦笑した。
「日本だと、富裕層シニア向けの、サービスは良いけれど入所費用が高い老人ホームがいくつもあって、そういう所では食事にずいぶんお金をかけているようなのですけれど……」というと、「アメリカではそういう人はおそらく家で暮らして、住み込みの看護婦や料理人を抱えているんじゃないですか」とのコメント。
ごっそり返品も! 基本的に買い取りをしないアメリカのスーパー
また、一人暮らしで可処分所得の高い、若いビジネス・プロフェッショナルをターゲットにした、オーガニック食品の取り扱いが多い高級スーパーなどで豆腐を売る際は、
「基本的にアメリカのスーパーに買い取り制度は無いんですよ。われわれの豆腐を売るにも、すべて委託販売なので、スーパーに出して売れ残るとごっそり返品されて戻ってきます。売れた場合には、棚貸しをしているスーパーが55パーセントものマージンを取りますから、よほど安く大量生産しないと、元が取れない仕組みなのです。
だから、なるべく返品される前に商品が売り切れないと困るから、豆腐の賞味期限ができるだけ長いことも重要になる。だからわれわれは、清潔な環境で、無菌状態で豆腐を作ることで、安全に食べられる期間を最大限に伸ばす努力も続けているのです」
ツァイさんは雑誌やTVで話題になっている、一見コストをかけずにスタートできそうなフード・トラック・ビジネスにも触れた。
「市場はもはや飽和状態なので、今からだったら僕はやらない。むしろ、人通りの多い場所の良い所に小さい店舗を一年間出して、その間にどんなメニューが求められているのか市場調査をするのが良いと思う。目安としては、一年間で5~8万ドルは投資をするつもり(儲けが出ない)で、二年以内に投資を回収し、3年目から儲けが出るように事業計画を作るのが、カリフォルニアにおけるフード・ビジネスのあり方としては一般的だ」
ツァイさんとは、その後、2012年のうちに二度ほど会う機会があり、もともと金融マンだった彼がなぜ「豆腐屋」になろうと決意したかのについて詳しく聞いて、起業を目ざすすべての人にとって興味深い内容だと思うのだが、その「起業のきっかけ」と注目のベンチャー企業としてのホードーの目ざすところ、また、近年のシリコンバレーで、ITだけでなく、食に関連したスモール・ビジネスに関心が集まってきている状況について、また、次回の連載で詳説したい。
「ビジネスはすべてがタイミング。運が良ければすぐに良い場所に店を借りられたり、営業ライセンスも取れる。商機をよく見て、場所、タイミング、人、運が必要だ」というツァイさんは、彼自身、とても運の強い人なのではないか……と思う。ツァイさんを見ていて、スタートアップのCEOは「明るく、楽天的なこと」が必須条件なのではないかという気になった。
*次回のHodo Soy Beaneryの取材は2013年春に予定しています。
ミン・ツァイ氏プロフィール
ファウンダー、ホードー・ソーイ・ビーナリー共同CEO
幼少期を過ごしたヴェトナムでは、毎朝のように祖父と一緒に近所の小さな豆腐店まで一緒に豆腐を買いに出かけた。新鮮な豆乳で作った手作り豆腐と湯葉の豊かな味わいは、いつも彼の記憶の中にあり、ついに2004年、「最高の品質で、最高に美味しい豆乳、豆腐、湯葉を作る」ことだけをミッションにホードーを設立した。以来彼は、毎日工場で豆腐製造の現場に立ち、また、ファーマーズ・マーケットや様々な場所へ出向いて「豆腐大使」としての役割を果たしている。
ツァイ氏はNYの名門コロンビア大学で経済学(Economic Development)の学士号と修士号を取得した後、十年間に渡ってストラテジック・コンサルティングの専門家として大手金融機関で働いた。豆腐づくりの現場にいない時は、最愛の夫人、そして、将来きっと豆腐マスターに育つであろう二人の小さな息子たちとの時間を大切にしている。