2013/03/18 10:09

アメリカにも美味しい豆腐があることを知ってほしい・・・
ーHodo Soy Beaneryー CEOミン・ツァイ氏の挑戦

Photo:笑顔でおからの山を崩すツァイさん Ⓒ Junko Iwabuchi

“カリフォルニア・ネイティブ”の豆腐専門店、Hodo Soy Beanery
ベトナム系ファウンダー、ツァイさんが金融マンをやめて豆腐マスターになったわけ Vol.4/シリーズ・パートI

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

「健康に良いけどマズかった」アメリカの豆腐

 豆腐、それも絹ごし豆腐と言ったら、日系人の方がやっておられるものとばかり思っていた。ツァイさんのところでは、湯葉まで作っておられる。私は、正直にツァイさんに言った。彼は愉快そうに笑顔を浮かべてこう語った。

 「もちろん、日本へは何度も行きましたよ。豆腐って、大豆だけじゃなくて水が大事なんですよね。水と大豆のベスト・バランスを求めて、京都はもちろん日本全国で豆腐を食べ歩きました。だって、美味しい豆腐が作りたかったから。今までのアメリカの豆腐って、健康には良いけどマズいというシロモノで、美味しい豆腐は存在していなかったですからねぇ。

 アメリカの豆腐は『健康食品』という面を一番に打ち出して、しかもスーパーで安く売るためのマス・プロダクションでした。豆乳は少なく、ニガリが沢山入っていて、はっきり言ってまずかった。それで、この国では誰も豆腐に対して良い印象を持っていなかった。

 僕は、その豆腐のイメージを変えたくて。食べて美味しく、健康にも良い大豆プロダクトとしての豆腐が作りたいと思ったのです。僕たちは湯葉でも成功を収めつつありますが、やっぱり美味しいものは、美味しいとわかる人がいる。それを適正価格で売って、買い続けてもらえるような仕組みを作る。そこが大事なのだと思っています」


日本人では思いつかない組み合わせ

 それから、北米でのフード・ビジネスへの参入を考えている知人が準備したいくつかの料理を広げて、ツァイさんに試食してみていただいたのだが、彼の反応はなかなか面白かった。アメリカで日本料理、日本の食材を売っていくというのはこういうことか……とつくづく考えさせられる結果となった。

 人は新しく出会った情報や体験を理解しようとする際、自分の親しみのある文化に関連づけようとする。食べ物の場合、その傾向は特に顕著になるようだ。ツァイさんは豆腐、白身魚、海老をプロセスした真丈(しんじょう)の葛餡仕立てを食べてこうコメントしている。

 「ベトナムのフィッシュボール・スープに近いですよね。たとえばこれを、寒い冬、ランチに豆乳ベースのクリーム・スープにして、たっぷりの野菜と一緒に提供したら、ビジネス街では人気になると思いますね。クルトンのかわりに小さい揚げ餅をいくつか入れたら、それだけで十分な食事になるかも」

 山椒を効かせた牛肉としらたきのしぐれ煮については「これ、たっぷりのレタスや他の生野菜と一緒にバゲットでサンドイッチにしたら最高ですね」。さらに、豆腐を抹茶シロップと抹茶パウダーでティラミス風に仕上げたデザートについては、「うわっにがい。この味は、僕はちょっと苦手です……」という反応だった。

 日本人の私にしてみると、醤油やみりんで味つけした山椒風味の薄切り牛肉としらたきをレタスと一緒にパンにはさんで食べるということは思い浮かばなかった。だがアメリカでは何年も前から野菜たっぷりのベトナム風のバゲット・サンド(バインミー)が人気を博している。テック系ビジネスマンの集うシリコンバレーの小じゃれたセルフ・サービスのベトナム料理店では、フォーやその他の麺料理と一緒に、バインミーも売られている。

 考えても見れば、日本では「照焼きバーガー」が普通に食べられているわけだから、照焼きソースのハンバーグの替わりに牛肉のしぐれ煮がサンドイッチの具となり、バンズがフランス・パンになっても、取り立てて驚くようなことではないかも知れない。

 Hodoの生湯葉を使った野菜のジュリエンヌ、スモーク・サーモン、クリーム・チーズなどを巻き込んだ料理についてツァイさんはこうコメントした。

 「先入観かも知れないけれど、日本人が作る食べ物で何かが巻いてあるというと、やはり、思い浮かぶのはスシなんですよね。そして、忙しいアメリカ人がランチに食べるということを想定すると、それ一つ食べただけでお腹が一杯になって、満足できるものが求められる。これ、ご飯を一緒に巻いたらどうですか?

 最近、すごく人気になっているSushirrito(http://www.sushirrito.com/)という店があるんですが、ここの人気メニューは極太の海苔巻き……というか、メキシコ料理のブリトーがスシと合体したようなフュージョン料理なんですけど、海苔のかわりに湯葉を使って、ベジタリアン向けのスシを作ったら、需要があるかも知れませんね」

PROFILE

ミン・ツァイ氏プロフィール
ファウンダー、ホードー・ソーイ・ビーナリー共同CEO

幼少期を過ごしたヴェトナムでは、毎朝のように祖父と一緒に近所の小さな豆腐店まで一緒に豆腐を買いに出かけた。新鮮な豆乳で作った手作り豆腐と湯葉の豊かな味わいは、いつも彼の記憶の中にあり、ついに2004年、「最高の品質で、最高に美味しい豆乳、豆腐、湯葉を作る」ことだけをミッションにホードーを設立した。以来彼は、毎日工場で豆腐製造の現場に立ち、また、ファーマーズ・マーケットや様々な場所へ出向いて「豆腐大使」としての役割を果たしている。

ツァイ氏はNYの名門コロンビア大学で経済学(Economic Development)の学士号と修士号を取得した後、十年間に渡ってストラテジック・コンサルティングの専門家として大手金融機関で働いた。豆腐づくりの現場にいない時は、最愛の夫人、そして、将来きっと豆腐マスターに育つであろう二人の小さな息子たちとの時間を大切にしている。