2013/03/15 11:44

アメリカにも美味しい豆腐があることを知ってほしい・・・
ーHodo Soy Beaneryー CEOミン・ツァイ氏の挑戦

Photo:Hodo Soy Beaneryの湯葉製造ライン Ⓒ Junko Iwabuchi

“カリフォルニア・ネイティブ”の豆腐専門店、Hodo Soy Beanery
ベトナム系ファウンダー、ツァイさんが金融マンをやめて豆腐マスターになったわけ Vol.3/シリーズ・パートI

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

「トーフ・ファクトリー」ではなく「ソーイ・ビーナリー」と呼ぶ理由

 ツァイさんの豆腐づくりの拠点は、12,000平方フィートに及ぶ大型施設が必要ということで、オークランド市西部のインダストリアル・エリア……というか、必ずしも治安が良いとは言いがたい地域にある。

 1920年に建物が作られた当時、そこはキャンディー工場で、その次は製パン工場として使われていた建物だという。Hodo Soy Beaneryの創業は2004年だが、この工場が稼働したのは2009年秋から。そして、その生産拠点は「トーフ・ファクトリー」ではなく「大豆食品製造所」という意味で「ソーイ・ビーナリー」と呼ばれている。

 ビーナリーにはサンタモニカにある有名レストラン、バーニーズ・ビーナリーのような「大衆食堂」という意味もあるが、ツァイさんのビーナリーは、純粋に大豆=ソーイ・ビーンから食品を作る場所=Production Facilityという意味だ。

 豆関係でいうと、コーヒー豆の焙煎・販売をしている場所をビーナリーと呼んでいる事例もアメリカにはいくつかあるようだ。いずれの場合も、豆にこだわったオーナーが「ビーナリー」という言葉をわざわざ使っている。ツァイさんの場合も、オーガニックの良質な大豆そのものにこだわっている……という思いを込めて、ホードー・ソーイ・ビーナリーと命名したようだ。


「好」Ho=Good、「豆」Do=Bean

 それでは、ホードーとは何か?

 Hodo=ホードーと聞いて、日本人の私は深く考えずに「日系人の苗字だろう」と思い込んでいた。ところがビーナリーに足を踏み入れ真っ先に目に飛び込んできたのは、太い筆と墨で中国風に達筆で書かれた「好豆」という大きな扁額。完全な防音ガラスで遮断された製造ラインへの入り口扉の横に掲げられたこの「好」がHo=Good、「豆」がDo=Beanなのだという。Hodo Soy Beaneryとは、「良い豆だけを選んで大豆を食品に加工する場所」という意味だったのだ。

 ミント色のボルボのステーション・ワゴンに乗って、私たちより一瞬だけ遅れてやってきたミン・ツァイ氏は若々しく、ドアの前にいる私たちに向かって「子供たちを学校に送り届けて来たところなんです。車を止めてきますから、ちょっと待ってて下さい」と、気さくな笑顔で声をかけてきた。いかにもカリフォルニアの経営者、といった風情だった。

 すぐにビーナリーのドアを開けてくれたツァイさんは、防音ガラスごしに豆腐や湯葉などの製造ラインが見えるミーティング・スペースに折りたたみの机と椅子を並べ、「電源入りますか? プロジェクター使います?」「あ、試食用のお料理を持って来て下さったんでしたっけ? お皿とお箸を持ってきましょう」と、てきぱき動き回った。

 それから「できたてほやほやの豆乳を飲んでみますか? 美味しいですよ」と再び笑顔で言って、「作業着に着替えないといけないので、ちょっと待ってて下さいね」と足早に去って行き、今度はガラスの向こうから、従業員と同じようにネットと帽子をかぶり、かわいらしいオーバーオールを着て、製造ライン内専用の長靴を履き、搾りたての豆乳を入れたピッチャー片手に戻ってきた。

 なんともリラックスした雰囲気で、いかにも楽しんで仕事をしているといった、いい笑顔。そして、発砲スチロール製のカップになみなみと豆乳を注いで、「まだ熱々ですから気をつけてね」と言って渡してくれた。

 豆腐大国であるはずの日本に住んでいる私は、もちろん良い豆腐が良い豆乳から作られることは知っていたし、スーパーなどで「豆腐が作れる豆乳」と誇らしげに書かれた紙パック入りの高価な豆乳を見たことはあった。

 しかし、ツァイさんがコーヒーカップに入れて渡してくれた、湯気の立ち上っている豆乳は美しい象牙色をしており、クリーミーで、口に含むと暖かく、ひときわ濃い、自然な大豆の味がした。何も入れなくても、適度に濃厚な脂肪分、甘み、旨味を感じて、思わず、「うわ~、美味しいですね」と言って、私は一杯めの豆乳をあっという間に飲み干してしまった。

 その飲みっぷりを見ていたツァイさんは、すかさず「もう少しあげましょうか?」とピッチャーを持ち上げるので、遠慮なく二杯目を頂いて、今度はそれをちびちびと味わいながら、お話を伺うことにした。

PROFILE

ミン・ツァイ氏プロフィール
ファウンダー、ホードー・ソーイ・ビーナリー共同CEO

幼少期を過ごしたヴェトナムでは、毎朝のように祖父と一緒に近所の小さな豆腐店まで一緒に豆腐を買いに出かけた。新鮮な豆乳で作った手作り豆腐と湯葉の豊かな味わいは、いつも彼の記憶の中にあり、ついに2004年、「最高の品質で、最高に美味しい豆乳、豆腐、湯葉を作る」ことだけをミッションにホードーを設立した。以来彼は、毎日工場で豆腐製造の現場に立ち、また、ファーマーズ・マーケットや様々な場所へ出向いて「豆腐大使」としての役割を果たしている。

ツァイ氏はNYの名門コロンビア大学で経済学(Economic Development)の学士号と修士号を取得した後、十年間に渡ってストラテジック・コンサルティングの専門家として大手金融機関で働いた。豆腐づくりの現場にいない時は、最愛の夫人、そして、将来きっと豆腐マスターに育つであろう二人の小さな息子たちとの時間を大切にしている。