2013/03/13 18:02

アメリカにも美味しい豆腐があることを知ってほしい・・・
ーHodo Soy Beaneryー CEOミン・ツァイ氏の挑戦

Photo:スーパーに並んだHodo豆腐のパッケージ Ⓒ Hiroki Nakayama

“カリフォルニア・ネイティブ”の豆腐専門店、Hodo Soy Beanery
ベトナム系ファウンダー、ツァイさんが金融マンをやめて豆腐マスターになったわけ Vol.2/シリーズ・パートI

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

アメリカ産豆腐は「グローバル・スタンダード」か?

 私は常日頃から、面白そうな人を見つけると「ぜひその人に会いたい」と思って、居ても立ってもいられなくなる。ツァイさんの存在を知った時も、正しくそうだった。

 Hodoの絹ごし豆腐と湯葉をファーマーズ・マーケットで買って来て、改めて食べてみた。一瞬、頭の中に宇宙が広がるような感覚を覚え、「これを作っている人に会いたい」と思った。

 もちろん、豆腐や湯葉自体が美味しいから彼に会いたいということでもあった。だがベトナム料理はアメリカで一定の市民権を得て以後、日本のスシが普及した以上のスピードで急速にメインストリーム化した。特にシリコン・バレーに近いサンフランシスコのThe Slanted Doorでは、見るからにITやクリエイティブ関係と思われるコーポレート需要で店は連日大賑わい。

 マネージャーからウェイター、シェフに至るまで、多くの白人を含む多民族編成で、ハイ・エンドと思われる日本レストランより、はるかにローカライズが進んでいるように見えることに私は興味を惹かれていた。

 こんなことを言うとうさん臭く思われるかも知れないが、アメリカ産のオーガニックの遺伝子非組み替え大豆のみで作られたピュアな豆乳から生まれる絹ごし豆腐は、日本のつるんとした豆腐とも、中国系の硬めの豆腐とも違う。ある種、豆腐の「グローバル・スタンダード」として存在しているような、そんな味がするような気がしたのだ。私は、その豆腐がどんな場所で、どのようにして、どういう人たちによって作られているのか、ぜひ見てみたいと強く思った。


ツァイさんと一緒に試食会

 年が明けて2012年、カリフォルニアで日本食材を使った新しいフード・ビジネスをやってみたいという日本の料理店経営者の知人が、マーケティング・リサーチのため、豆腐や湯葉を含む、現地の日本食材を使った料理の試食会を開くことが決まった。当然、豆腐も湯葉もHodoで調達することになった。

 モニターには日頃から「フーディー」を自認する、食べることが大好きなブロガーでもある友人・知人のほか、パリでミシュランの星付きレストランでシェフとしての修行を積み、サンフランシスコ市内でのレストラン経営を経て、現在はケータリング及びフード・ビジネスのコンサルタントをしている女性など、人種やバックグラウンド、年齢層も幅広い参加者を集めた。

 この時、思い切ってThe Slanted Doorのチャールズ・ファンさんとHodoのミン・ツァイさんにも声をかけたのだが、ファン氏は生憎と長期海外出張中。ツァイさんの方は、「試食会の時間帯には都合がつけられないが、翌朝もし工場まで来てくれるのであれば、喜んでお会いし、試食もさせていただきます」との返事をもらった。

 そこでわれわれは、料理を容器に小分けして翌朝午前10時にオークランドのインダストリアル・エリアにある生産拠点、Hodo Soy Beaneryを訪問することとなった。持ち込んだ料理は豆腐、白身魚、海老をプロセスした真丈(しんじょう)の葛餡仕立て、ジュリエンヌした野菜、スモーク・サーモン、クリーム・チーズなどの生湯葉巻き、日本食材でダイエット食品として注目を集めつつある「しらたき」を使った牛肉しぐれ煮の山椒風味、豆腐を抹茶シロップとパウダーでティラミス風にしたデザート、など。

 初めて面会するのにこれらの試食品を持ち込んだ理由は、ツァイさんが「美味しい豆腐を作ることはできた。今後、アメリカで豆腐市場を拡大していく上でカギとなるのは、多くの人に豆腐が健康に良いだけでなく、美味しい食べ物だということを知ってもらうこと。そのためには豆腐のさまざまな食べ方、料理方法を知ってもらうことが重要」だという発言をあちこちで繰り返していたのを目にしていたから。Hodoのウェブ・サイトにある中国、ベトナム系のおすすめレシピに「日本風」の食べ方も加えてもらえたら……という思惑があったからだ。

PROFILE

ミン・ツァイ氏プロフィール
ファウンダー、ホードー・ソーイ・ビーナリー共同CEO

幼少期を過ごしたヴェトナムでは、毎朝のように祖父と一緒に近所の小さな豆腐店まで一緒に豆腐を買いに出かけた。新鮮な豆乳で作った手作り豆腐と湯葉の豊かな味わいは、いつも彼の記憶の中にあり、ついに2004年、「最高の品質で、最高に美味しい豆乳、豆腐、湯葉を作る」ことだけをミッションにホードーを設立した。以来彼は、毎日工場で豆腐製造の現場に立ち、また、ファーマーズ・マーケットや様々な場所へ出向いて「豆腐大使」としての役割を果たしている。

ツァイ氏はNYの名門コロンビア大学で経済学(Economic Development)の学士号と修士号を取得した後、十年間に渡ってストラテジック・コンサルティングの専門家として大手金融機関で働いた。豆腐づくりの現場にいない時は、最愛の夫人、そして、将来きっと豆腐マスターに育つであろう二人の小さな息子たちとの時間を大切にしている。